ひとりギーク 24本目

僕は、『普通』という言葉があまり好きじゃない。にも関わらず、『普通』をテーマに今から文章を綴ろうとしている自分にも少し、憤りを感じている。それを踏まえて、以降読んでほしい。

 

僕は今現在、大きく括ると2つのコミュニティに属している。学生時代の友人とバンド関係者だ。関わる人で自分を変えている、とかそういう事ではなくどちらも本当の自分であり、偽ってもいない。しかしバンドマン相手と飲みに行くのと地元の友達と飲みに行くのとでは話が変わってくる。学生時代の友達の中では自分が1番酒豪であったり、ライブの打ち上げの席では女性が苦手であることをいじられたりするので、そこは臨機応変に対応していかなければならない。自分が出す必要の無い素の部分を、どちらか一方のコミュニティで引き出してくれているのだ。

 

だが、この2つのコミュニティに共通する部分がある。まっつんは『変わっている』と度々言われることがあるのだ。

この両組は正反対の性質を持っていると思っている。バンドマンという特殊な職業である以上、社会においてはマイノリティーな存在である。一方地元の友人達は、四年制大学を卒業見込で教師になる者、専門学校を卒業してサラリーマンになる者、高校時代は部活に打ち込みそのまま就職している者等様々いる。例外として、プロフットサル選手の友人もいるが、あくまでも例外。どれも社会から歓迎されているかのようにみえる。(フットサル選手が歓迎されていない、と言いたい訳ではないしむしろスポーツ選手は歓迎されているように思える。)

ここで出てくるのが『普通』である。誤解を全く恐れずに言うと僕は後者のような生き方は『普通』の生き方、なのだと思う。誤解を、恐れずに言った。決して義務教育や大学進学をさせてもらえることを当たり前の事だと思っている訳では無い。しかし、誤解をしてほしく無いし、自分でも暴論とは理解しつつ発言するが、ボーッと生きていたら『普通』の生き方になるのだ。今の社会はそういう仕組みで成り立っているし、そういう人間を迎え入れる、ようにみえる。

ではなぜ僕の周りには『普通』の生き方を歩んでる者が多いのか、それは僕の学生時代にまで遡る。

 

かくいう僕も、『普通』の生き方をしてきた人間の1人だった。今でこそ変わっていると言われるが、平和な家庭で、少し周りより背が高く、スポーツもそれなりに出来、勉強は基本的にはできないが、努力する事は苦手じゃないので受験シーズンになると塾に入り、そこそこの学校に進学できた。周りと何ら変わらない。短所はすぐに思いつくが長所は書き出せない、人前で発表する時は緊張して冷や汗をかく。この辺の感覚も『普通』だ。しかし、自分は『特別』な人への憧れが『異常』だった。何者かになりたい、自分は特別な人間だ、と思う若干厨二病感の否めない感覚は、男子学生であれば『普通』だと思う。しかしその度合いが僕の場合凄まじかったのだ。

例えば、何かで全国大会に出場するだとか、給食を食べるのがとんでもなく早いだとか、霊感があるだとか、なんでもよかったが僕にはそれが無かった。『少数派』に憧れて中学受験をしようと思い、学校から帰宅したその足で塾に行ったこともある。だが親に止められて辞めた。そんな『特別』への憧れを抱く『普通』の人間だった。

 

だが、そんな『普通』な僕にとって転機が訪れた。高校を卒業してアルバイトを始めた。親の仕事先の人手が足りなくなり、春から大学生になったがコロナ禍で授業も無く、暇だったのだ。そこで気がついた。僕は『異常』な程の人見知りだったのだ。元来それには気づいていたが、ここまでのものか、と自分でも驚いた。学生時代には友達も人並みにいたが、初めて社会に出てみると何も話せないし、目も見れない。学生バイトで飲み会をするとなっても顔を出さなかった。今考えると上司の息子が話しかけても反応しない、相当腫れ物扱いされていたと思う。(自分が悪いのは分かっている。)しかしそんな自分をどこか『特別』に感じていた。激イタなのは重々承知している。

 

そんな中、バンドを始めることになる。僕は『異常』な程の人見知りなので、社会からみると『異常』であるバンドの世界では馴染めるのではないか、と思っていた。しかし飛び込んでみると、答えは真逆にあった。

まず、酒を飲まない。タバコを吸わない。皆さんわかるとお思いでしょうが、この時点で『異常』だった。そして打ち上げでも誰とも話さない。話せない。恋愛経験もなく、女性慣れしていない。こんな奴はバンドの世界において、存在しないのだ。『異常』な世界で『異質』な存在になるとは聞いていない。そんなことは求めていない。仲間からまっつんは、変わっている、と言われ始めた。ほんのばかりの喪失感を抱いた。

そしてその頃から、社会のハミダシモノになった僕は親戚や友人からも、好奇の目なのか、失望なのか、はたまた僕の抱いていたものと同じ『憧れ』なのか。そんな風に見られていると感じ、何故か少し、優越感に浸った。

 

 

『特別』に憧れ過ぎた『普通』の男が、『異常』な世界に飛び込み、『異質』な存在となった。いかにも、奇態な物語である。